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横浜地方裁判所 昭和43年(ワ)821号 判決 1971年8月31日

原告

新川実

代理人

瀬谷忠夫

被告

小泉正雄

代理人

佐瀬昌三

外三名

主文

被告は原告に対し金五万円及びこれに対する昭和四拾弐年七月七日以降完済まで年五分の金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

この判決は、第壱項及び第参項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金三、六三一、四二七円及びこれに対する昭和四二年七月七日以降完済まで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。<以下略>。

被告訴訟代理人(山崎)は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。<以下略>

理由

一請求の原因一(事故の発生と傷害)中、原告が佇立していたこと及び被告がよそ見運転をしていて前方注視を怠り原告が歩道寄りの車道にいたのに気づかず漫然運転を継続したことと加療期間の点を除き、その余の事実は当事者間に争いがなく、これらの事実に<証拠>を綜合すると、次の事実が認定される。

本件事故現場の当時の状況は、市街地で保土ケ谷方面から反町方面に向うコンクリート舗装の平坦で見透しのよい片道幅員6.7m、二車線(対向車線も二車線)の車道でこれに沿つて幅員4.5mの歩道があり、右車道は前方二〇m余の個所において武玄寺方面から片倉町方面に至る車道と直角十字形に交差しており、その交差点の手前に横断歩道の標示があり交通量の多い場所で、小雨がふり路面は湿潤であつた。原告は自己の勤務先である東京都大田区久ケ原町一二二八番一号所在の有限会社三共梱包工業所に出勤すべく原告車を運転して保土ケ谷方面から反町方面に向い本件事故現場付近に至つたが、当時同人の妻が病気のため横浜中央病院に入院中で布団を必要としていたので予てから布団屋を営んでいた姉(訴外漆原ふで)を通じて本件現場付近の布団問屋グリーンフォームに布団を注文してありそれが出来たときいたので会社からの帰途それを持つて帰るべく予じめその所在を確かめておこうとして、原告車を車道左側端に駐車し降車して一旦歩道上の車道より部分に上り、姉に教えられたとおり反対側の商店街にグリーンフォームなる店舗を探し当てたがその店頭に布団類が陳列してないので不審に思いつつ駐車中の原告車の前方を横切つて反対側のグリーンフォームに行くべく車道を横断し始めた時、折柄被告運転、保有の被告車が原告車と同方向に時速約四〇Kmで第一車線を走行してきて前方に原告車が駐車していたのでこれを回避するため道路中央線寄りの第二車線に入つて原告車を追越そうとした瞬間原告は同車左側前部に衝突し(被告は自車の約七〜八m前方に原告を発見し急制動の措置を執つたが降雨中で路面がぬれていてスリップしたので及ばず原告に衝突した。)因つて原告主張の傷害を負い、事故日の昭和四二年七月六日から同年九月一三日まで横浜中央病院に入院加療し以後昭和四三年八月三一日まで同院に通院加療したが、同四四年一二月三日現在なお頸部痛、頂部痛、右肩関節運動制限が残つていると診断された。<反証―排斥>

されば、被告は、特段の事由なき限り、自賠法第三条本文、第四条、民法第七一〇条に則り、本件人身事故に因り原告の蒙つた財産的、非財産的損害を賠償する責任があるところ、被告は自賠法第三条但書所定の免責の抗弁を提出するを以て案ずるに、右事実関係の下においては成程被告主張のとおり原告は付近の横断歩道を横断すべきものをこれを完全に無視して駐車中の原告車の前部から車道を反対側に横断しようとしたものであつて、このことは走行中の被告車の側からみれば自車進路前方に突如横断者が現れた一種の飛び出しでありその予見の具体的可能性がなく殆んど自殺的行為ともいうべき原告の重大な過失ともいえるが、しかし被告も亦自車前方約七〜八m先に車道を横断中の被告を発見したからには警音器を吹鳴して警告を与え原告の横断を中止させる等危害を未然に防止するに有効、適切な措置を全く執り得なかつたとは断定しかねるから、被告に全然過失がなかつたことを前提とする右抗弁は、他の要件につき論及するまでもなく、これを採用するに難く、本件にあつては原、被告両者の過失割合は原告8/10、被告2/10と判定するを相当とする(この過失割合は、仮りに原告本人尋問の結果中にあるごとく原告が原告車を駐車して右側運転席ドアから車道に降り立ちグリーンフォームを確かめるため自車の周辺の車道上を徘徊していたものとしても、同じである。何となれば駐車中の原告車と同一通行帯を後続する車両が駐車車を避けて第二車線に入り追越又は追拔をするであろうことは容易に予見し得るところであり、その場合右の如き行動をとつていることは非常に危険であることは多言を要せず、又かかる車外行動を執らずとも駐車中の自車の窓からグリーンフォームの確認は十分できた筈であるからである。。)

二請求の原因二(損害)については、

(一)  諸雑費 金三五、五〇五円

<中略>

(二)  治療費金 六五、六二四円

<中略>

(三)  交通費 金三八、六四〇円

<中略>

(四)  逸失利益金 一、三二〇、〇〇〇円

<証拠>によれば本件事故当時の原告の給与月額は勤務先の有限会社三共梱包工業所から金七〇、〇〇〇円、劇場有楽座から金一〇、〇〇〇円、合計金八〇、〇〇〇円であつたところ、本件事故による受傷のため昭和四三年八月一杯まで約一年一ケ月間休業のやむなきに至り合計金一、〇四〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた外三共梱包から昭和四二年六月及び一二月の二回に支給を受け得べかりし賞与合計四ケ月分金二八〇、〇〇〇円をも支給されなかつた事実を認めうるから、結局その逸失利益の損害は合計金一、三二〇、〇〇〇円となる。

(五)  慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

以上判示、認定の諸事実の外本件に顕われた諸般の事情を斟酌すれば原告の心身の苦痛に対する慰藉料は金一、〇〇〇、〇〇〇円を相当と判定する。

(六)  右(一)乃至(五)の損害の合計は金二、四五九、七六九円となるところ、<証拠>によれば被告は昭和四二年九月二九日に金二〇、〇〇〇円、同年一〇月一八日に金一〇〇、〇〇〇円、合計金一二〇、〇〇〇円を損害賠償として原告に支払つた事実を肯認し得べく(その余の被告の弁済の抗弁(合計金六六一、三七七円)については、<証拠>によれば被告主張通りの支払事実は認められるが、これはすべて原告の医療費に充当されており、しかも原告はこの分を控除して本件請求をしているのであるから、この段階では結局理由がないことに帰するが、後記の如く全捐を算出し過失相殺をする段階においてはこれも亦控除すべきである。)、又被告主張の金五六七、六四七円を原告が受領したことは当事者間に争いがなく、これが原告の被害者請求の方法により直接に給付を受けた自賠責保険金で本件損害に充当したことは原告の自陳するところであるから、これらはこれを損益相殺に供さるべきである。

しかして、その前に、右既払額のすべて(合計金一、三四九、〇二四円)を加算して本件事故に因り生じた全損害を算出するとそれは金三、八〇八、七九三円となり、これに前示割合による過失相殺をすると金七六一、七五八円となり、これから右既払額金一、三四九、〇二四円を控除して損益相殺をすると結局〇円となる。

(七)  弁護士費用 金五〇、〇〇〇円

以上の通り原告の残損害はこれなきに帰するが、本件事故の発生に因り本件訴訟が提起されざるをえなくなつたのであるから、本件事案の難易度、訴訟経過、訴訟活動等本件に顕われた諸般の事情に鑑み本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は金五〇、〇〇〇円を相当とする。

三よつて、被告は原告に対し右金五〇、〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日の翌日たる昭和四二年七月七日以降完済まで年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本件請求は、右限度内に於てのみ正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項、第四項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(若尾元)

別紙(一) 請求の原因

一 被告は昭和四二年七月六日午前八時五〇分頃その保有にかかる普通貨物自動車(横浜四ら第五一三五号、以下被告車という。)を運転し横浜市神奈川区三ツ沢上町一八番地先道路を保土ケ谷方面から反町方面に向かい時速約四〇キロメートルで進行していたが、折柄同地点に原告が業務上グリーンホーム布団店の所在確認のため自家用自動車スバル一、〇〇〇横浜五に32―75から下りて佇立していたところを、被告はよそ見運転をしていて前方注視を怠り原告が歩道寄りの車道にいたのに気づかず漫然運転を継続して自車の前部を原告に衝突させてその場に転倒させ、よつて加療約一ケ年を要する(現在も通院加療中)閉鎖性頭部外傷、右鎖骨下顎骨、左腓骨骨折、両上肢挫創腰部打撲の傷害を与えた。

二 右は原告の過失による運転の結果発生したもので、これにより原告は次の通り損害を蒙つた(詳細は別表の通り)。

(一)諸雑費費用 金六二、〇六七円

(二)治療費費用 金七〇、六三〇円(昭和四二年九月一三日までの分は被告が支払つたので同月一四日以降の分)

(三)交通費費用 金三八、七三〇円

(四)得べかりし所得(給料)損失損害金金一、二六〇、〇〇〇円

(五)慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円

(六)訴訟代理人費用 金二〇〇、〇〇〇円

計 金三、六三一、四二七円

三 よつて、自動車損害賠償保障法第三条並びに民法第七〇九条により、原告は被告に対し前項損害金合計金三、六三一、四二七円及び内金三、四三一、四二七円に対する昭和四二年七月七日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴提起に及んだ。

別紙(二) 答弁

一 請求の原因一の中、原告が佇立していたこと及び被告がよそ見運転をしていて前方注視を怠り原告が歩道寄りの車道にいたのに気づかず漫然運転を継続したことはいずれもこれを否認し、加療期間の点は不知、その余の事実は認める。なお、被告車の衝突部位は左側前部である。

二 同二は、争う。

三 同三は争う。

四 被告の抗弁

(一) 本件事故現場の道路の幅員は広く、かつ、同現場の二〇m反町寄りには横断歩道があるにもかかわらず、原告は左右の安全を確認せず突然被告車の約七m前方を小走りに横断したため本件事故が発生したものであり、同事故は原告の一方的過失に基因し、しかも、被告車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は免責さるべきである。

(二) 仮りに被告に過失があつたとしても、右に述べたとおりの事実関係であるから原告にも重大な過失があるから、損害額算定につき過失相殺を主張する。

(三) なお、被告は原告に対し本件事故の損害賠償として次のとおり合計金七八一、三七七円を弁済したから、弁済の抗弁を提出する。

1昭和四二年七月六日 金一九、一〇〇円

2同年同月 金八二、〇三六円

3同年八月一日 金一六〇、二四一円

4同年同月一九日 金二〇〇、〇〇〇円

5同年九月一一日 金二〇〇、〇〇〇円

6同年同月二九日 金二〇、〇〇〇円

7同年一〇月一八日 金一〇〇、〇〇〇円

(四) 更に、被告は原告に対し昭和四二年九月一三日まで数回に亘り合計金五六七、六四七円を弁済している(因みに、原告が昭和四二年七月六日から同年九月一三日まで要した入院、治療費等は合計金五六六、四三四円である。)。このことは過失相殺の対象となる全損害を算出するために主張する     以上

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